市民の森ながの
山の嫁さん ― 小より大きい方が好き ? ― 2007/12/13 伊鍋 和治
過日、母が黄泉へ旅び立った折り実家に10日ばかり滞在した。
通夜明けの早朝猿の掛け合いが近くに聞こえて来た。 弟が跳ね起きてパジャマのままバケツを持って飛び出して行ったが猿は姿を見せなかったようだった。
車や人の往来が立て混んだ数日は猿も喪に伏して(?)おとなしくしていたようだが、 関係者が引き上げて車が1台になるのを見定めて活動を始めた。
明け方になると、ヒューッ パン、ヒューッ パンと一人暮らしの隣のばあちゃんが山の嫁さん(猿のことをばあちゃんは「山の嫁さん」という)歓迎(追い払い)のロケット花火を上げてくれる。ばあちゃんが一人で奮闘してくれているのに寝ても居られないから、形の崩れた専用のバケツを持ち出してガンガンと歓迎(?)する。 山の嫁さん達はこちらの顔色を覗いながら一時引き上げるものの、我々が家に入るのを見届けてまたお出ましになる。
干し柿用の大粒のフジ柿が真においしそうな色合いになり、猿でなくても手を出したくなるが、これがまたすこぶる渋い。その昔、父がこの柿から柿渋を採っていたのを見たことがある。
山の嫁さん達は色合いの良いものからかじっては捨てかじっては捨てて行く。すぐ近くに小粒の甘柿が鈴なりになっているのにそれには全く手を出していない。 色もあまり良くないし一見おいしそうにも見えないからだろうか。 山の嫁さん達は小より大きいほうを好むらしい。
山の嫁さんに盗られるのはシャクだから、 「干し柿にするには少し早いかも知れないが早く取った方が良い」と言うばあちゃんの忠告に従って、 嫁さん達の盗り残しを一つも残さず採ってしまった。フジ柿がなくなって当てがはずれた山の嫁さん達は、しかたなく(?)美味しくなさそうな小粒の甘柿に手を出し始め、 甘柿と知るやまたたく間に裸にしてしまった。
フジ柿も甘柿も枝ばかりになってしまうとお隣さんの歓迎(?)花火も上がらなくなり、私の朝寝坊を母の遺影が笑っているように見えた。