日本列島は南北に長い島国で、感覚的に北に行くと寒く南にいくと暖かい。
具体的には北は北海道の宗谷岬が北緯45度31分で、南は九州の鹿児島県佐多岬が北緯31度に分布しています。
南北の直線距離にして約1600Kmです。(緯度1度は距離にして約111Km)
気温の変化は、一般的には緯度1度で約0.7度変化すると言われています。
又、緯度の変化以外に標高によっても気温が変化します。その割合は標高が100m高くなると気温が約0.6度低下すると言われます。
この影響で高山に登ると気温が下がり、植生も大きく変化します。
緯度の変化による水平移動は111Kmで0.7度と垂直の変化に比べれば1000倍ほど緩やかですが、
確実に変化します。このため同じ平地でも北海道と九州では気温が違いそれにより植生も違います。

私が住んでいる長野市は北緯36度40分で、平均気温は11.7度です。
長野市の気候帯は令温帯気候で植生は落葉広葉樹林が主です。一方、鹿児島県は北緯31度36分で、
平均気温18.3度と暖温帯気候に属し主な植生は照葉樹林です。あきらかに長野市とは違う植生が成立しているのです。

11月末、長野地方の森はすっかり落葉して雪を待つばかりになっています。
この時期にこそ長野には無い常緑の照葉樹林を歩きたくて九州に出かけました。
合わせて、九州といえば「火の国」といわれた火山の多い場所です。
噴火とその後の植生の回復推移を見る事と、ついでに山登りもと欲張った計画を立てました。

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具体的に訪れた場所は南から佐多岬、稲尾岳、高隈山、桜島、霧島連山、綾照葉樹林、雲仙岳、阿蘇山、くじゅう連山である。
日程は11月25日から12月11日の約2週間。
費用削減のため宿泊の基本は車中泊とし、愛車プラドの2列目の座席を取り外し床板を張ってお座敷兼物いれを作る改造を行いました。
11月25日夜自宅を出発。長野自動車道、中央道、名神と乗り翌朝終点の西宮に到着。
その日の夕方フェリーで大阪港を出航し、淡路島の東を通り紀伊水道を抜けて四国沖を通り一路太平洋を南下。

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翌27日の午前9時鹿児島県志布志港に入港し念願の九州に上陸したが、天候はあいにくの小雨。
ガソリンスタンドでプラドに燃料を補給後、今日の目的地である本土最南端の佐多岬を目指した。
目的は「ソテツ」の自生地を見る為。

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佐多岬のソテツ自生地

北信では植物園や庭園等では見られるが自生のソテツは見た事が無い。
佐多岬は北緯31度で沖を黒潮が流れる位置にあり、年間降水量は1500ミリ、平均気温は19度と亜熱帯気候の北限に位置している。
(ちなみに長野市は北緯36度40分で年間降水量は900ミリ、平均気温は11.7度。
飯山市は北緯36度52分にあり年間降水量は1291ミリ、平均気温は10.4度である)

周囲にはソテツの他に色鮮やかな赤色のブーゲンビリア、ハイビスカスの花が咲き、ビロウやガジュマルと言った熱帯気候の植物が自生していた。

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ガジュマル(枝から根が出て地中にもぐり幹になる)

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ビロウの林

暖温帯気候の照葉樹林を見る為に稲尾岳を目指した。
稲尾岳は大隈半島の南端で太平洋に面し海岸から直線距離で約2Km。
海洋性気候の影響を強く受けており、北緯31度にあり標高は930m。
気候は近傍の内之浦町で年間降水量は3195ミリ、平均気温は18.4度と長野市に比べて降水量は3.7倍、平均気温は6度も高い。
(稲尾岳は標高が高いため降水量は更に多くなり気温は若干低下すると思われる)
ふもとの南大隈町を7時30分に出発し、稲尾岳ビジターセンターに9時に到着。
途中でセンターの職員の車に追い抜かれはしたが本日のビジター一番乗りでした。

しかし、天候はあいにくの暴風雨。1時間ほどビジターセンター内でお勉強と天候待ちとなる。
幸いにも風雨とも弱くなってきたので執りあえず10時15分出発した(往復コースなので天候悪化なら途中で引き返す事とした)

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稲尾岳ビジターセンター

登山口の標高は830m。アップダウンの続く樹林の中を、途中最高所の枯木三角点(959m)を経由し約3.3kmで稲尾神社の祀られている稲尾岳山頂に達する。
林内は温暖な上降水量が3000ミリを越えているため、ほとんどの樹木の幹にはコケが着生している。
小雨の天候の影響もあると思うが林内は鬱葱としている。木々が落葉しないことに加えて葉が厚いため日光を多く遮り暗い森となり、北信の落葉樹林とは別世界であった。

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11月末の照葉樹林内を行く

林内の樹木は大半が馴染みのない種で、取り付けられている名札を見て一つ一つ確認納得しながら歩いた。
高木相としては、ブナ科のアカガシ、ツブラジイ、ウラジロガシ、クスノキ科のタブノキ、イヌガシ、マンサク科のイスノキ、ツバキ科のヒメシャラ、モッコク。
中低木相としてはツバキ科のサザンカ、サカキ、ウコギ科のカクレミノ、ミカン科のミヤマシキミ、ツツジ科のアセビ等が見られた。
途中の稜線部分は強風のためにアカガシ等が矮小化して低木林を形成していた。
しかし、頂上付近の凹地には大木のモミが純林を作ていた。

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稜線上の低木林

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頂上部凹地のモミの純林

アップダウンを繰り返しながら12時50分やっと稲尾岳頂上に到着した。
頂上には我々より先発した福岡県から来たと言う10人のパーティがいた。
後13時30分小雨も上がり薄日のさす中、帰路に着き15時40分登山口に到着。
延べ行動時間は5時間半。途中1パーティに会っただけの静かな観察会でした。
明日は南限のブナをたずねて高隈山の予定。今夜のねぐらは「道の駅たるみず」。
道の駅をめざして林道を下っていく途中で、薩摩半島の開聞岳に沈むサンセットに遭遇。ラッキー。
道の駅たるみずは錦江湾の海岸べりにあり、
「日本一長い足湯」と「スーパーマーケット」と「温泉」と「レストラン」が併設されており車中泊にはうってつけの道の駅であった。

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稲尾岳山頂

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開聞岳のサンセット

午前7時に道の駅たるみずを出発し、8時10分に登山口に到着したが既に先行車が1台停車していた。
今日はブナの南限地として知られている「高隈山(たかくまやま)」への登山である。
高隈山は大箆柄岳(1237m),御岳(1182m),平岳(1102m),横岳(1094m)等の山域の総称で高隈山と言う山は存在せず、
今回は主峰の大箆柄岳(おおのがらだけ)を目指した。
位置は北緯31度29分東経130度49分で鹿児島湾の海岸線から12km入った場所。
気候は近傍の鹿屋市で年間降水量は2675m、平均気温は17.8度。
稲尾岳に比べて降水量が少ないのは太平洋でなく内海の鹿児島湾側であるのと海岸からの距離により海洋性が弱くなっているためと思われる。
登山口には看板が立っておりこの区域は林野庁により「森林生物遺伝資源保存林指定」に指定されており、
1万年前の氷河期に生育していたブナを主体とした落葉樹は、その後の温暖化により下から照葉樹林に追い上げられた。
現在は標高1000メートルを境に、下部は照葉樹林、上部は落葉樹林と住み分けている主旨の説明が書かれていた。
準備を整えて登山を開始した。登山道はアカガシ、ウラジロガシ、スダジイ、ヤブツバキ、イスノキ等の茂る鬱葱とした中を緩やかに上っていく。
登山道脇に写真のようなヤブツバキが現れた。決して細くはない人と比べてもはるかに太い。
庭に植栽されたものを見慣れている者にとってはビックリする大きさである。

10時に5合目の見晴らし岩に到着するが、あいにく小雨が降り出し展望は良くない。
更にここからクサリ場となり急登が始まる。急斜面になるに従いコースは荒れてくる。

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急登始まる

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ヤブツバキの大木

10時30分7合目付近でついにブナが現れた。標高1050メートル。
だが、いつもの見慣れたブナと違い幹の低い位置から周囲に枝を張っている。
又、太さの割には樹高が低く矮性化していた。葉の大きさも我が家のブナと比べてもずいぶんと小さい。
本によれば気温の低い場所に生育している固体は葉のサイズが大きくなるそうだ。次は北限のブナも見てみなくては。
更に高度を上げるつれミズナラ、ブナ等の高木、ノリウツギ、リョウブ等の低木、林床にはスズタケが現れてきた。
しかし北信の落葉樹林と違ってアカガシやシキミと言った常緑樹が混在している。

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南限のブナ

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ブナの葉(右の葉は我が家のブナ)

11時20分ついに霧の大箆柄岳山頂に到着。晴れていれば鹿児島湾に浮かぶ桜島から開聞岳、霧島連山と大パノラマが見えるはずである。
しかし頂上は霧の中。霧が濃いが風も強いので視界が開けるのを期待して30分ほど待つことにした。
待つ間に2パーティが到着し写真を撮ってもらった。
待つも展望は開けず気温も下がってきたので12時に下山することにした。
南限のブナに別れを告げ13時50分登山口に到着した。

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14時、次の目的地の桜島を目指して林道を下る。
旅はこの後、桜島、霧島連山の高千穂峰と韓国岳、宮崎県の綾照葉樹林、九重連山、阿蘇山、雲仙普賢岳と続きますが、今回はこれにて終了。
この続き第二部は又の機会に・・・・・・・・・・・