市民の森ながの

山仕事の道具の話1 「鉈」 2007/8/1 佐々木 政彦

山仕事の必須アイテムのひとつに鉈がある。その他にも手鋸や、藪払いの鎌などいくつか道具はあるが、思い入れを持てる道具の一番は鉈だと思う。きこりの魂といっても言い過ぎではないと思う。

初めて山仕事の話をしてくれた地方事務所林務課の堀内さんに鉈の大切さを聞かされた。 話を聞いているうち自分も鉈が欲しくなり、心の中で
「よし明日早速ホームセンターで買ってこよう」
などと考えていたら、その心を読み透かすように
「刃物はちゃんとした金物屋さんで買わないとだめだよ」と釘を刺されてしまった。 数日後、言葉通りわざわざ山の中の、雑貨屋さんを兼ねた金物屋で購入した。それは、棚に10年以上は置かれていたのだろう、店主が「ふっ」と積もった埃を吹き掃い、 腰に下げた手ぬぐいできれいにすると黒皮の鞘に納まった、黒打ち仕上げ、刃幅の厚いクラッシックな鉈だった。 茶色に変色した値札の価格は、確か5800円だったと思う。

以来、山仕事には必ず共にあり、一仕事終えた晩には必ず研いだ。おかげで刃幅は1.5センチも減ってしまった。枝打ちで刃先を欠いたときは胸が痛んだ。 切れ味を求め、刃先を薄く仕上げていたため、こぼれやすかったのだ。

この愛着のある鉈に後輩を作った。 上田のヤマショーに行ったときの事だ。 最初は、手鋸を求めるつもりでいたのだが、手に合うデザインのものがなかった。そこで、店に展示されていなかった鉈の話となり、店主が「土佐モノならあるよ」と出してくれたのだ。 一目見て気に入った。職人の作った物に同じ物は二つとなく、その場を逃すと二度と出会えないこともあり、そのインスピレーションによって購入を決めた。土佐モノといっても、巷間言われているような、高級品ではない。ごく一般的な、価格からすればむしろ普及品である。

昨今通販が流行っている。 日本中どこで求めても同じ製品であれば、安くて早い通販も分かる。しかし、手に持つ道具は目だけの判断では買えない。 写真では重さやバランスは見えないのだ。

新しい鉈を早速使ってみた。 案の定切れが悪い。最初はこんなもんだろう。しっかり研ぎなおして、自分好みの鉈に仕上げよう。

古い鉈はピンチヒッターができたので、じっくり刃こぼれを直し、現役復帰をさせようと思う。 良くも悪くも私の好みの鉈になっているはずで、新しい鉈がそうなるまでは時間が掛かるだろう。 自分の好みにあった良い道具は仕事が楽だ。 山仕事を始めてあらためて判ったことである。